four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 2-13


「お連れ様がお待ちです」


店に着いた僕は、女性店員に誘導されながら中庭の石畳を進む。そして、細い階段を上がり、個室へと通されていた。
この隠れ家的なプライベートルームは、黒を貴重とした都会的な雰囲気の部屋だ。間接照明とテーブルの上にあるランプの光は、客の心をしっとりと癒してくれ、広くとられたガラス窓からは、一階バーの明かりだけが見えている。



「ごめん、遅くなった。平井何飲む」
「私は、バーボンサワー」
スーツのジャケットを脱ぎネクタイを緩めながら、僕はガラスのテーブルについた。
「僕は、麦焼酎で。ある?」
「はい、ございます。銘柄は……」
最近は、飲むにしろ焼酎ばかりだ。次の日に残りにくいのが一番いい。そんなことを思いながら、いつもの銘柄を頼んだ。
「さて平井、呼び出し喰らうまで付き合ってやるよ」
「呼び出しがかからないように、祈らないとね」



朝より少し落ち着いたのだろうか。
彼女は、痛々しげな頬を庇うように少しだけ微笑んだ。化粧をしてはいるものの、真っ赤になった瞳と腫れ上がった左頬はこの暗がりでもよく目立つ。
「随分こっぴどくやられたもんだな。もちろん、やり返したんだろう?」
「あたりまえよ。倍に返してやったわ」
亜紀はそう言うと、テーブルに置いていた僕の手をそっと掴み、腫れたほうの頬に当てた。外気温に晒された僕の手は彼女にとって心地よかったようで、『冷たい』と呟いてそっと目を閉じる。
「貰った指輪も作ってきたウェディングドレスも、あの人のマンションの前に全部捨ててきちゃった。そしたらね。胸がスカッとしたわ」



彼女は、そのまま経緯を話し始めた。
真純と別れた勢いで、飲み屋で出会った彼と付き合い始めた。それなりに仕事も認められて、自由が利く。温かい家庭が作りたいと話す彼に、結婚するには最適な人だと思ったのだと言った。
「彼と結婚して、あなたに幸せな自分をアピールしたかったの。心の絆だけじゃ駄目なのよって、あなたに訴えたかった。でも、そう考えること自体、あなたを意識し続けていたのよ。もっと早く、気付けばよかった」
「えっ?」
亜紀の意味深な発言に、首をかしげ見返す。だが彼女は僕の手を離し、何もなかったかのように、店員から酒を受け取ったのだった。
「さあ、飲みましょう」
結局その意味について、彼女は答えてくれなかった。




「呑まれるなよ」
「分かってるって!」
 昔から酔うと陽気になる彼女、さすがに今日は絡み酒となっていた。だが、デザイナーの男のことじゃなく、なぜか、僕の愚痴ばかりを言っている。
「だから、あなた人が良すぎて悪いのよ!お父さんから何でも仕事を任されて……おかしいわよ。なんで副社長の真純くんが、人一倍仕事して、挙句の果てに土地の買収なんてしないといけないのよ。普通、書類に印鑑ポンだけでしょう。社長って名のつく人は!」
「テレビの見すぎだ。平井」
と言うものの、確かに買収に関しては自分がしなくても良いような気がした。それさえなければ、空き時間が出てくる。葉子に寂しい思いをさせることも少なくなるのだ。
「だけど、君の言うことは一理あるかもしれないな…」
心の絆だけでは、やはり苦しいことも多すぎる。


……ふと、葉子の寝顔が浮かんできた。


「でっしょう!!ほら意見も合ったことだし、注いであげるからあなたも飲んで。私のお酌を断るなんてしないでよね」
完全酔っ払いの亜紀は、スクッと立ち上がると僕の席の方へ歩き始める。千鳥足の彼女、テーブルにぶつかりそうになりハラハラさせられた。
「ほら、もういいから。危ないだろう」
だが、僕が立ち上がったのと彼女が躓いたのは同時だった。スローモーションで、彼女が胸の中に倒れ込んでくる。身体が条件反射をおこしたように、己の胸に彼女を受け止めていた。


「rush ……」
「えっ?」
「GUCCI rush for men.……あなたの香りが、懐かしい……」


僕は、彼女の呟きで我に返った。
彼女の肩を持ち離そうとするが、亜紀はワイシャツを掴んだまま離してくれず、そのまま顔を埋める。
「真純くん……より戻そう…」
「平井……」
「亜紀よ……平井なんて、もう呼ばないで」
ツンと胸が痛くなった。
この言葉を、もっと早くに聞いていたならば、状況は変わっていたのだろうか。だが、今の僕は彼女を恋人として隣に置くことなどイメージできなかった。
結局、僕らはすれ違う運命だった。
どんなに燃え上がる恋をしても、ふたりの足並みが揃わなければ終わりなのだ。すれ違いに怒りをぶつけたあのクリスマスの別れが、本当の別離だった事を痛感した。
「平井…、もうよりは戻せない。あのクリスマスの別れから僕らは違う道を歩み始めたんだ」
亜紀は、その言葉に悲しげな瞳を向け、そして、一枚のメモを僕に見せた。それは、葉子が僕に書き残した手紙だった。
「どうして……」
「あなたのハンカチの中に入っていたのよ。違う道って、あなたはあのGUCCIのショップに来てた子と一緒に歩いてる…、そういうことなのね?」
葉子の姿が脳裏に浮かんだ。
「ああ、そうだ」
驚きの表情をしている亜紀に、僕はそう返答した。



「ふう…」
トイレだと席を立った僕は、バーの外に出ていた。
外の空気を沢山体内に取り込んだ僕は、葉子に電話をかけようと思い、スーツのポケットを探ろうとして頭を抱えてしまう。ジャケットは、バーに置いてきたままだった。公衆電話を使うにも財布もない。
結局、10分ほど風に当たり彼女の元へと戻った。


「何も電話はなかったわよ」


スーツのジャケットを探り携帯電話を取り出した僕の手を掴んだ亜紀は、携帯を奪い「ほら」と液晶を見せた。
「きっと神様は、私に味方してくれているのね」
勝ち誇った表情で、携帯を戻される。
彼女の言うとおり、FIEからの電話も、そして電話番号を教えた葉子からの電話も入ってはいなかった。彼女だったら、かけてくると思っていたのに……その自信はただの自意識過剰だと知り、ちょっと、ショックを受ける。
「そうみたいだな……」
「やけに残念そうね。あの彼女から連絡待ってるとか……図星?」
心中愉快だと言わんばかりに、グラスを合わせ乾杯を求めてくる。
「いいだろう」
「ふうん、でも言っておくけど、彼女あなたには似合わないわよ」
「えっ?」
亜紀は、こっちを睨みつけながらひとくち酒を口に含んだ。
「どう見てもバランスが悪すぎるわ」
「何だって」
意地悪そうに、だが彼女特有の色っぽい目つきに変わる。そして彼女はこう言った。
「あなたは気付いてないかもしれないけど、真純くんって女性に優しすぎるのよ。モテるあなたに、地味で男性には疎そうなあの彼女。ハラハラして毎日を過ごすことにいつか彼女が疲れるわ」
「だったら君もそうだったのか?」
「私?私はモテたから……あなたと並んでも見劣りはしない」
「まったく、人の彼女のことを散々に言うな」
まぁ、確かに彼女は地味な方だ。顔だって性格だって……だけど。
「でも、彼女と接していると凄く癒されるんだ。他の女性と接している僕とは違うことを、彼女はきっと分かってくれるさ」
亜紀は、瞳を大きく見開くと僕をじっと見つめていた。
「どこまで気付いてくれるかしら」
クスッと意味深な笑いを浮かべた彼女は、酒をグッと飲み干す。
「真純くん、注いで。とことん付き合ってもらうから覚悟してよね」
私を振った罰として……彼女は、そう付け加えると楽しそうに笑ったのだった。






……結局。
亜紀が僕を解放してくれたのは、ビル群が陽に照らされ始めた頃だった。
彼女は別れ際、こう言った。
「私ね、こないだ彼女に頑張れって言ってやったわ。てっきり片思いだと思ってたし……だけど、前言撤回。やっぱりあなたが好きだから、真純くんの気持ちを取り戻すよう頑張る!」
「平井……何言ってんだよ。僕は…」
「人の気持ちに永遠なんて無いってこと、あなたも知ってるでしょう?一年先のことなんて誰にも分からないのよ」
あれだけアルコールを飲んだにもかかわらず、あれほどの出来事があったにもかかわらず、亜紀は果たし状を突きつけると笑顔でタクシーに乗り込んだ。


女性というのは、実は怖い生き物なのかもしれない……。


タクシーのテールランプを見つめながらため息をついた僕は、スーツのポケットから携帯を取り出す。
だが、FIEからも葉子からも着信はなかった。
「僕がロスに行くって言うのに、葉子さんは寂しくないんだろうか?」
僕は、ざわめきが戻る街に向かって呟いた。白すぎる息は、なんだか空しくビルの森へと消えていったのだった。





それから、葉子の着信履歴を見つけたのはロスの地に降り立った後だった。着信を消した亜紀。僕は、彼女の本気をその瞬間理解したのだった。










最終話


















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まるこ

Author:まるこ
オリジナル恋愛小説を運営する
心の景色を文字にするのが大好きな
管理人。
『春夏秋冬』(R-15)

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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/
10/ 11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/
17/ 18/ 19/ 20/ 21/ 22/ 23/
24/ 25/ 26/ 27/ 28/ 29/ 30/
31/ 32/ 33/ 34/ 35/ 36/ 37/
38/ 39/ 40/ 41/ 42/ 43/ 44/
45/ 46/ 47/ 48/ 49/

~真純くんの事情~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/ 10/
11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
本家サイトにて公開中(R-15)





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