four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 2-10


この花屋へ通う度に、自分の立場が仕事だけではなくなってきていることを感じた僕は、焦っていた。
羽並へ対する思いがおかしいと確信したのは、彼女が花の棘で怪我をした時。
指先から赤い血が滲んでゆくのに、なんと彼女は、ビニールテープで自分の指を巻こうとしたのだ。彼女の仕事に対する熱心さは今までのことで十分に分かっている。そんな自分を省みない行動に、僕は待ったをかけた。


「君、何やっているんだ!雑菌が入ったらどうするんだ」


そう彼女を叱りながら、僕は彼女の傷ついた指を口に含んでいた。
『どうして、こんなこと』と心が彼女に問いかけている。雑菌が入って指が使えなくなったら、君の好きなアレンジは出来なくなるんだぞと訴えた。
土地を奪うだけなら彼女の指がどうなろうと関係ないはず。だが、僕は自分の意志で彼女の技を守っていたのだ。


― 僕は、もしかして?


自分への問いに返事を返す暇もなく、その行為は魚住鮮魚店の店主に遮られ、僕の正体を明かされることとなった。
我に返った僕は、外れきっていた心の鎧を整え直す。だが、彼女を煽ってみても冷たい態度をとってみても、僕の行動はカラカラと空回りするばかりだった。



それからの僕は、父に止められながらも、FIEの施設の中に花屋を入れる計画を進めていった。
自分では、もう止められない状態だった。羽並へ向けている情はあの自殺した老夫婦に向けていたものと同じ…それ以上だと父に指摘されても、それが最善策だと押し切る。
『痛い目に合うぞ』
『そうなったら、全責任は僕が持ちます』
情を上回る何らかの気持ちが、全速力で僕の背中を押してゆく。さすがの父も、お手上げ状態でこう言い残した。
『真純、買収相手に恋でもしたか』
『えっ?』
『恋は盲目……ってやつだ』
父は、このとき僕の心を見透かしていたのかもしれない。
自身でもその気持ちに気付いたのは、病院の階段の踊り場で彼女の本当の姿を見たときだった。










妹の見舞いのため、病院の階段を上がった僕は、踊り場で羽並葉子を見つけていた。彼女は全く気付いていない。声をかけようとして、ハッと息を呑む。
日頃の、明るい羽並葉子の姿はそこになかったのだ。彼女の背中は力なく下がり、小刻みに振るえていて……泣いていた。
あの定食屋の店主が言っていた事が思い出される。
彼女の姿からすると、それは本当のことで母の容態は最悪なのものと推測された。『母親が死んだら天涯孤独の身』そう最後に言った彼の言葉が、彼女の背中に重なって胸を切なくしてゆく。
あの老夫婦の件以来、そんな気持ちになることなどなかった。
買収相手の土地や金に関することには興味があっても家庭の詳しい事情など買収には関係のないことには興味もなかった。
同情しているだけだと言われたらそれまでかもしれない。だが、彼女の震える背中をこの身体で包み込みたいと思ってしまうのは、もう同情の域を越してしまった証だと思った。



― 僕は、彼女に恋している。



頭の中でそう言葉にすると、心の中につっかえていた何かが外れた。



― そんな、泣きはらした顔をお母さんに見せるのか。お母さん、辛いだろう。



ほとんど身内のような感覚。僕は痛む胸の内で、そう彼女の背中に訴える。そして、声をかけた。
「あれ?葉子さんじゃないか」
僕は彼女の涙を止めるため、おどけたピエロになることにした。









僕たちは、病院を後にしていた。
羽並の母親は彼女に似てとても気さくな人柄だった。僕らの関係を思いっきり勘違いしていたが、それを別に訂正したいと言う気も起こらなかった。なんだか身内のような暖かいひと時を過ごさせてもらった。羽並の母親の前でも、そして、僕の妹真美の前でも……なんだか優しい気持ちが込み上げてくる。
「今日は、ありがとう。紐の組み方まで妹に教えてくれて、真美は身体が弱いからどうしても気持ちが内に入ってしまうんだ。君のお陰でこれから外に目が向きそうだよ」
花束の作り主の出現に大喜びした妹へ、羽並葉子は四葉をはじめ紐の組み方を幾種類か教えてくれた。
「うちの母を楽しませてくれたお礼と、あなたと違って気の優しい真美ちゃんのためよ。決して、あなたのことを認めたわけじゃないから」
「別に、認めてくれなくていいよ」
羽並葉子のこのひと言は、現実に立ち返らせる。プライベートな雰囲気から、仕事の話に戻るこのひと言を言わせているのは紛れもなく僕だった。

― それがなければ、僕たちの仲はなかなかいいものなのに。

自分の立場がうっとおしい……僕は、そんな気持ちになり、ドキッとした。 プライベートが仕事を呑み込みはじめている…と思うと、ゾッとする。プライベートと仕事の危ない綱渡り、共倒れのシグナルが鳴り響く。この買収が上手くいかないということは、彼女の技を埋もれさせてしまうということ。それは彼女の借金が膨れ上がり、二進も三進もいかなくなる姿を暗示させた。

― そんな道だけは、進ませない!

彼女を乗せるため、玄関前の駐車場に止めてあった車の助手席のドアを開いた僕は、彼女に言った。
「ただ僕は、君の泣きはらした顔を病気のお母さんに見せたくなかっただけなんだ。お母さんの病気、重いんだろう?」



― お母さんの病気、重いんだろう?
 

「あなた、私のことを調べたの。土地のため」
買収話に彼女を向き合わせるため、お母さんを利用していた。
そんなこと昔の自分なら平気でやりのけていたのに、今は胸が痛い。だが、交渉台に踏み込ませるためにはこんな荒治療も仕方がないことだった。
『癌である母親を利用したい』
その極めつけの言葉で、彼女はFIEに宣戦布告してきた。僕に対しても敵だと断言する。彼女を交渉の舞台に引き摺り上げた……全ては思惑通りなのに、逆にどんどん悲しくなる自分がいた。なぜ、好きな人とこんな戦いをしなくてはならないのかと心のバランスがグラグラ揺らぐ。
僕は焦り始めていた。
彼女へ、自分がここまでする理由を知ってもらいたくて、FIEを見せるために彼女を無理矢理車に押し込む。それは余計に彼女の興奮を助長するものとなり……そして、羽並葉子の悲痛な叫びを聞くことになった。


「なにするのよ、電車で行くからほっといて!もう、私の心を乱さないで、敵だったらもっと冷たくして!あなたの車なんかには乗せないで、ふたりっきりなんて、もうよして……辛すぎるのよ」


彼女も、僕への思いと買収を拒否する心との狭間で潰されそうになっていたのだ。僕の心のバランスは崩れ去り、プライベートは仕事を呑み込んでしまった。




「僕だって…」


「えっ?」

彼女は、僕の異変に大人しくなり、涙でぺとぺとになった顔を向けてくる。
「……ふたつの立場で、身を引き裂かれそうな思いだ」
買収相手に告げた思い。
父の言うとおりこの思いが災いして、買収が出来なくなるかもしれない。
だが、僕は心に決めた。
仕事とプライベートを両立してやる……と。



吹っ切れた僕は、羽並葉子へ積極的にアプローチをはじめていた。



第11話
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まるこ

Author:まるこ
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『春夏秋冬』(R-15)

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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
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24/ 25/ 26/ 27/ 28/ 29/ 30/
31/ 32/ 33/ 34/ 35/ 36/ 37/
38/ 39/ 40/ 41/ 42/ 43/ 44/
45/ 46/ 47/ 48/ 49/

~真純くんの事情~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/ 10/
11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
本家サイトにて公開中(R-15)





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