four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 48



ガシャン……ゴー……ガシャン。





ショベルカーが、店を崩してゆく。
戦火にも堪え、長年の風雪の中でも何十年もちこたえてきたはなみの店舗が、バケットの掻き手であっという間に壊されてゆく。
自分で決断したとはいえ、自分の身までが崩されるような感覚が走る。足は振るえ、涙が溢れてきた。


「いや…やめて!」


ほとんど無意識の行動だった。
工事中のFIEの土地に駆け寄ると、防音幕を外そうとしたのだ。
壊さないで…そう何度も叫びながら中に入ろうとする私を、真純は身体で塞ぐ。
「危ない!葉子さん」
振り解こうとする身体を、彼の手が繋ぎ止めた。
雁字搦めのその身体から真純の温かな体温が流れ込んでくると、少しずつ現実が見えてくる。
生まれ育ったこの家そしてこの店は、もう羽並のものではないんだと。


「ごめんね、おばあちゃん。お母さん」


足元の力が抜け、アスファルトに崩れ落ちてゆく。
店舗が更地になるまでの間、真純の腕で支えられた私は、彼の胸で泣いたのだった。




















車で30分の小高い山の中腹。そこは、街全体が見下ろせ、天気のよい日は、遠くに海が見える絶景の場所だった。
その中にある、明るく見晴らしのいい霊園。
本当はその土地を買い母を埋葬したかったのだが、金銭的な問題で断念。結局、今までどおり霊園奥にひっそりと建つ納骨堂で、祖父母と共に眠ってもらっている。

今日は、真純と解体工事を見届けた後、母へ会いに来た。
母が心待ちにしていた真純の顔見せ、そして、夜からの遠距離恋愛……。あと、1年…それ以上になるかもしれないという真純の帰国についても報告することにしている。







「へぇ、納骨堂ってこんなになっているんだ」
恩田家のご先祖様は、さっきの霊園に眠っているため、納骨堂は初めての体験のようだった。真純は、『一度入ってみたかったんだ』と無邪気に喜び、繁々と室内を見回している。
そんな彼を仏様の前まで案内すると、『おぉ』と声が漏れた。
真純は、施設とのギャップに驚いているのであろう。古びた納骨堂には似合わないほどの立派な仏像が、そこに存在していた。
黄金色に光り、どっしりとあぐらをかいた仏様の前に立つと、空気は変わり、ピリリと気が引き締まるような感じがする。その悠々たる姿を見上げながら、私は長細い線香を1本手に取り、火をつけようとする。だが、真純は軽く制止し、もう2本を加えた。
「えっ?3本」
「ああ」
彼の顔を伺いながらライターであぶり、軽く振って火を消すとそれを香炉へと立てる。
軽く手を合わせ、祖父母と母がお世話になっていることを感謝した。



「さっきの線香の数だけど」



母が眠っている棚へと向かいながら、私は気になっていたあの事を真純に訊ねてみた。
「いつだったか、聞いたことがあるんだ。この3本の線香の意味をね。これは、現在・過去・未来……。3つの世界の仏様のために供えるためなんだとね、なんだか壮大でいいと思わないか」
 真純自身、あまり宗教のことに興味は無いらしいのだが、その話を聞いてから、3本の線香を上げるようにしたのだと言った。
「おかあさんは、そんな仏様たちに守られているって訳。だから、感謝しなくちゃな」
「そうなんだ」

真純って凄いと思う。

何でも知っていて、頼もしい。
「最近、あなたの凄さを感じてばかり」
「そう?この話は、昔買収した仏壇屋の主人から聞いただけだよ。頭の隅にでも知っておけば、こうやって話題に出来るだろう」
「それだけじゃないわ」



彼に甘えて私はいろんなことをしてもらった。解体屋から提示された無謀な料金形態に対応してもらったり、配達用の中古車を選ぶ時も上手く値切ってくれたり。
そして、彼の立場の凄さを顕著に表したのが銀行での融資だった。
私の姿を値踏みをするようにじろじろと見た挙句、まるで、子供を相手するような態度で接してきた行員が、それまで、黙ってその成り行きを見ていた真純から名刺を渡されると、態度を一変させ希望以上の金額を融資するとまで言い出したのだ。
「確かに金が絡む商売は、駆け引きが必要になってくる。やたら滅法に飛び込んでいっても相手にいいようにされるだけなんだ。相手も商売だから、一目で金持ってるか、高く売りつけれるかを計算してくる。だから、こっちが優位に立ついろんな切り札を準備しておく必要があるんだ」
「ふうん、よく分からないけど、駆け引きといえば恋愛と一緒ということなのね」
私のひと言は、真純の笑いのつぼを押したようで、部屋の中に響くような声で噴出し、笑い始めた。だが、周りの怪訝そうな視線を感じた彼は、咳払いをし笑いを堪える。
「まさか、葉子さんの口から恋の駆け引きという言葉が出るとはね。まいったよ」
「それって、どういう意味?」
と聞きながらも、真純の言いたいことは分かっていた。
「どうせ、恋においても仕事においても、私は駆け引きなんて出来ないわ」
「だろうね」
ククっと笑う真純。
かなりムカつく。そんなにはっきりと肯定しなくてもいいじゃない…、なんだか子ども扱いされているようで、カチンと来た。
「……だからいいんだ。君がそんなの使っていたら、今の僕たちの関係は無かったと思う」

「えっ?」

こんな場所で、意外な告白を聞くことになるなんて。
「何においてもまっすぐな君だから、僕は惚れたんだ」
「まっすぐな……」
ホント私って単純なんだと思う。顔は蒸しあがったお饅頭のように熱を持ち、顔の筋肉は緩みきっている。きっと彼が詐欺師だったら、しめしめと思うくらいに分かりやすい反応。
「なに、ニヤけてるんだ?」
「い、いいじゃないの……嬉しいのよ」
「そうか、やけに素直だな」
真純は、満足そうに私の頭をパフンと叩いた。
なんだか嬉しくなる。恋人になったら人目を気にせず、こうやって彼といちゃいちゃ……もとい、仲良く出来るんだということに。




私たちは、一番壁際の棚の前に立っていた。
小さな棚には、羽並と書かれた札が飾られてあり、その扉を開くと陶器で出来た骨壷が姿を現す。一番新しい骨壷が母だった。

「おかあさん、約束どおりふたりで来ましたよ」

真純は、そういうと躊躇することもなくその壷をスッと撫でた。彼の表情はまるで自分の母親を見るように愛しげで、彼がどれだけ母を気遣ってくれていたのかが、分かるようだった。
「ほら、葉子さん。報告しなきゃ。おかあさん、待ってるよ」
「え、ええ」
肩を叩かれ我に返る。
真純と一緒に手を合わせた私は、母へ報告することにした。
「お母さん、遅くなったけど、私の彼を連れてきたわ。FIE副社長の恩田真純さん。もちろん、お母さんも知ってるでしょう?」
『分かってるわよ。どれだけ待ったと思ってるの!』なんて、母の小言が聞こえてくるようだった。すると、母の声ではなく、真純の声が私の言葉に付け加えるかのように聞こえてくる。
「先ほど、花屋の解体工事が終わりました。きっと、葉子さん同様お心を痛めていることでしょう……。彼女の事、心配は尽きないと思いますが、これからは僕が恋人としてFIEの副社長として守り通しますのでご安心ください。彼女の腕を枯らすことだけは絶対しませんので、これからも見守っていてください」

「真純…さん」

目を閉じお祈りしている真純を見上ながら、私は胸を熱くしていた。
解体作業の間、彼は何も言わず私を抱きしめてくれていたのだが、彼もまた、私の動揺する姿に胸を痛めていたのかもしれない。母に誓うのと同時に、自分自身にも言い聞かせているようにも感じた。
彼の優しさにますます虜になってゆく。そして、そんな私たちをみている母も有頂天になっているような気がした。孫への妄想を抱きながら。




なんだか母の言葉が聞こえてきそうだ。
『でかしたわよ。葉子』って。




「真純さん」
「なに?」
私は、祈り終わって視線を下ろした真純に、店主として、未来のはなみを誓うことにした。
「真純さんがロスに行っても、頑張るから。帰ってくるときには花屋をお客でいっぱいにしてみせる……遠距離で恋しくなっても、寂しくなっても…まっすぐあなたを想って頑張るわ」
「葉子さ……ん」
申し訳なさそうに眉を寄せた真純は、私の肩を引き寄せていた。
「僕も頑張って、1日でも早く帰国するから」
「う……ん…」
愛しげに見つめる真純の顔がそっと近づいてくる。
それに併せて私もそっと目を閉じて……。
すると、真純の囁き声が聞こえてきた。



「仏様。ご先祖さま。この場でキスすることをお許しください」



温かい唇の感触が私の唇に当たる。
小鳥の恋の囁きのような啄ばむキス、私は場所すら忘れてうっとりと酔いしれたのだった。
















出会い編 最終話につづく。。。




お線香の数について。。。
宗派によって、お線香の本数や意味合いが微妙に変わるようです。3本でも「仏・法・僧」だったり、1本や2本のところも。。。ちなみにここでの意味は、浄土宗のものです。

今度は間違いなく最終話です♪








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(かなりの確立で更新の後押しとなりそうです。。。笑)
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コメント

おあずけかぁ~!

こんにちは☆
「わた彼」も最終話おあずけですか(笑
今週は諸事情により忙しくてお邪魔できないと思っていたのですが、ちょっと時間が出来たので、覗かせていただいたらば・・・
う~ん、真純さまはやはりロスへ。
でもでも「出会い編」の次は「真純編」!!
真純さまがロスで活躍するところが見られるのですか!?
宗に続いて真純さままでも海外進出!
まるこさんの書かれるロスの風景に期待大です。
もちろん、最終話のUPも待ち焦がれております♪
あ、真純さまロスでパツ金と浮気などしないですよね??
でも、三角関係で悩む真純さまのお姿も拝見したいかなぁ~・・・なんて(^^;
まるこさんは色々とお忙しい身ですから、
お体にお気をつけてくださいね。
これから暑さが本番、熱中症などに気をつけてください。熱中症になったら、わきの下・頭の3点冷却が利くそうですよ。(太ももの付け根の5点冷却はもっと利く)看護師の友人が言ってました。

zaziさ~ん♪

こんにちは☆

おお~読んでくださってありがとうございます!!
そうなんです~。真純はロスへ。。。ホントに遠距離恋愛!?いろんな気になるを残して48話を終えてしまって申し訳ないです(滝汗)明日更新予定の最終話で、そのあたりの気になるが取れたらいいのですが。。。どうでしょう(笑)

真純編は、ロスではなく出会い編のサイドストーリー的なものになりますね。出会い編ではあまり触れなかったけど、恋人編では、重要になってくるあの人物が出てくる予定です(。。。って、誰だよ~と言われそうですが・・・笑)


おっ、パツ金。。。zaziさん、いい勘持ってらっしゃる(笑)
恋人編で。。。どうでしょうね(意味深)


身体を気遣ってくださって、ありがとうございます~~~(感涙)ほんと、もう一ヶ月もすれば夏本番ですものね。5点冷却を使わなくてすむように気をつけなければいけませんね。zaziさんも体調崩さないように~~。

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まるこ

Author:まるこ
オリジナル恋愛小説を運営する
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管理人。
『春夏秋冬』(R-15)

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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/
10/ 11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/
17/ 18/ 19/ 20/ 21/ 22/ 23/
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~真純くんの事情~
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11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
本家サイトにて公開中(R-15)





拍手御礼!

拍手をいただきありがとうございます。皆さんに楽しんでいただけるようこれからも頑張ります!

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