four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 45



NO50と書かれた母の日記。

大学ノートの中央にきちんと整列して綴られている文章は、母の性格をよく表していた。
「そう言えば、おかあさんは几帳面だったわね。帳簿も綺麗につけてたし……。そんなところがどうして似なかったのかしら」
私だって母の真似をし、日記を書こうとしたことがある。だけど、可愛い日記帳を買ってもらっても、5枚程度しか埋まらず、帳簿だって一応つけてはいるが、ほとんどどんぶり勘定に近いものがあり……。自分自身だって分かっている。経営者向きじゃないってこと。



私は、ノートをパラパラと捲る。
その内容のほとんどは癌のこと、そして、はなみ花屋と私の将来の不安ばかりが綴られてあって。
「ごめんね。頼りにならない娘で。……最後まで安心させれなかったんだね」そう問いかけながら、母の日記を掻い摘んで読んでいく。
だが、その不安ばかりの日記が、ある日を境に変わることとなった。



「11月13日 天気はれ……そうそう、確か母と真純さんが初めて会った日だわ」
その内容はこうだった。



          *** *** ***




【11月13日 天気はれ】

突然、娘が凄いイケ面の男性を連れてきた。
私は、名刺を貰って驚く。彼はFIEの副社長、FIEといえば、前に土地の買収を持ちかけてきた会社だ。
葉子は、彼の事を知って付き合っているのだろうか。一体何を考えているのかと思ったが、彼と話してそんな気持ちはなくなった。


なんだか、息子を持った感覚に陥った。
おかあさん、おかあさんと親しげに呼んで、娘を褒めてくれる彼が私は好きになった。今度こそ上手くいって、結婚して孫の顔を……そんなことを思ったらワクワクしてきて、頑張って生きなきゃと希望が湧いてきた。




         *** *** ***



私は、母の日記を読みながら噴出していた。母は、私たちの姿を見ながら、ひとり夢見ていたんだ。孫まで作り上げて。
「何が今度こそよ。彼と付き合ってなんかなかったのに。完全に信じ込んでいたのね」
母の妄想壁にも困ったものだ……なんては言えない。
そういう私も、そんな母の遺伝子をしっかり受け取っているのだから。可笑しさを堪え、先を進めた。
「なになに……。11月14日、天気曇りのち雨。驚いたことに、真純君がひとりで病室に来てくれた……。えっ!真純さん真美ちゃんの退院の日も来たんだ」


驚いた。


彼は、ひとことも母に会ったなんて言ってなかったのだ。やはり、母を利用するつもりだったのだろうか。




          *** *** ***




【11月14日、天気曇りのち雨】


驚いたことに、真純君がひとりで病室に来てくれた……。
真純君の第一声の『おかあさん』が、凄く心地よい。
一途に見つめる瞳は、まるで本当の母親に向けられているようなそんな錯覚にさせられる。きっと、彼は身内に対してこんな優しい態度で接しているのだろうと推測できた。
そして、彼ってどうしてこんなに話を聞きだすのが上手いのだろうか。
いつの間にか、彼は私が中学時代クロールの選手だったことを聞き出し、僕も好きなんですよと話してくれた。


彼は、いろんな話をしてくれた。その中で驚いたのは、FIEが出来るきっかけだった。
彼の母は、彼が中学生のときに脳梗塞で左半身に麻痺が残っていたのだという。身体に負担がないということで、学校帰りに母を連れて区民プールに行っていたのだが、道中が遠く断念。
そこで彼は、自宅にプールを作ってくれと父親にせがんだのだ。
結局は、その気持ちに父親が答えたことが、FIEの元祖だと笑っていた。



彼は、心優しい男の子だった。
『だからおかあさん、僕が隣町のFIEに連れて行きますから、リハビリして歩けるようになりましょう。医師の許可が出たら葉子さんに伝えてください』彼は、そう言ってくれた。なんだか、彼が言うと本当に歩けるような気がしてきた。





           *** *** ***




「真純さん……」
彼はそんなことを母と約束していたんだと思うと、なんとも言えない感情で胸が圧迫され、とても苦しくなった。
『おかあさんを利用して』彼は、その気などさらさらなかった。
あの時彼が言ったとおり、私が持つ怒りというエネルギーを出しつくし、FIEに目を向けさせるための演出だったのだ。
 


日記には、私の知らない母の心が書いてあった。
生きる希望をなくし、ただ娘の幸せを待ち続けた母は、真純と出会ってから、少しでも長く生きたいとの目標に変わった。毎日がとても楽しくて、母は、何度も医師にプールでリハビリをしたいと訴えていたようだった。



母が急変する前の日記。
真純が花束を持って、母の元に訪れた日だ。
『12月26日、今日から外泊。朝来るって言ったのに葉子はまだ来ない。何やっているのやら』
日記は、それで終わっていた。
次のページも次のページも真っ白で。
12月29日午前4時に母は永眠した。







「真純さんのことは、結局書けなかったんだ」
母の誕生日、真純との会話が書かれてあるかななんて思っていたのでなんだか、残念に思った。
私は、両手で日記を閉じ、ため息をつく。
すると、ノートの裏に厚ぼったい違和感を感じた。
「何か挟まっているわ」
不思議に思った私は、裏表紙を開けていた。そこには、真っ白い封筒が挟み込んであって。
住所と私の名前。母は、手紙を出そうとしていたに違いない。そっとその封書をあけてみた。





         *** *** ***




【葉子へ】



もう、真純君と正式な恋人になりましたか?
と、こんなことをいきなり書くのも変な話ですが、
12月26日私の誕生日を聞きつけた真純君が、突然私の元にやってきてくれました。
あなたに作ってもらったという花束を持って病室に現れたときは、まるで、王子さまが現れたかと思うくらいにドキドキして、なんだか、思春期に戻ったかのようにはしゃいでしまいました。いいおばさんなのに恥ずかしい限りです。

 

私は彼から、真純さんとあなたは両想いだけれども、ある障害があって堂々と付き合えないのだと聞きました。彼はその理由には触れなかったけれど、直感で土地のことだと分かりました。
葉子は、私に心配かけないようにと黙っていたようですが、随分前から、土地の買収騒ぎが持ち上がっていることを知っています。
もちろん、真純君がその関係者であることも知っていました。



だけど、彼から1月14日が過ぎ、全ての障害がなくなったら葉子の恋人として挨拶にきますと約束してくれたので、安心して報告を待つことにします。
こんなことを書いても、結局はいつもあなたに会うのだから話しちゃうんだけれど……。あまりにも、嬉しくて書いてしまいました。
 



彼が最後に言ってくれた『葉子さんの全てを僕に任せてください』という言葉が、彼の一途な性格を表しているのだと思います。



葉子。
もし、この手紙を見る機会があって、まだ悩んでいるのだとしたら、彼の胸に飛び込みなさい。
彼は、あなた自身を見、アーティストとしてあなたの腕を評価してくれてる。もしその結果、土地を売りあの店がなくなるということになっても、おばあちゃんと、私が授けたその技術は消えないのよ。
幸せは掴むものなの。
分かった?あんないい男、お母さんのためにも逃しちゃ駄目よ。
 



12月26日
親愛なる葉子へ      母より




           *** *** ***






手紙が小刻みに揺れ、涙の雫がぽろぽろと真っ白い便箋に落ちてゆく。「馬鹿!おかあさんたら……。どうして、遺言が逃しちゃ駄目なのよ」
母は、土地のことを考えながら亡くなっていったのじゃなかった。
真純と出会ったことを幸福に感じ、娘の今後の未来を夢見ながら逝ってしまったんだ。


「ごめんなさい……。真純さん……私、あなたの誠意を踏み躙ったのね」


母の真意を知っていたなら、彼をあんなに攻撃なんてしなかった。
だがもう、時既に遅し……だ。
あんな別れ方をして、もう修復できない。
笑いなのか泣きなのか分からない嗚咽が出てくる。
「もう、終わったのよ。お母さんの夢は、叶えられそうにないわ」

だけど……。

恋人関係は無理だが、FIEを建てる彼の夢は叶えることができる。そう思った。
私は、手紙をバッグに入れると自分の部屋へ帰り、クローゼットを開ける。もう残り香などないはずなのに、ほんわりと真純の香りがして胸がぎゅっと絞られる感じがした。

「真純さん、まだ言わないで!」

溢れ出る涙を何度も拭きながら、私は時計を見る。
14時30分、もう説明会は始まっていた。

「お願い!!」

私は、ダウンジャケットを取り出し羽織ると説明会の会場へと行くために家を飛び出したのだった。









第46話へつづく










長くてすみません~~



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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/
10/ 11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/
17/ 18/ 19/ 20/ 21/ 22/ 23/
24/ 25/ 26/ 27/ 28/ 29/ 30/
31/ 32/ 33/ 34/ 35/ 36/ 37/
38/ 39/ 40/ 41/ 42/ 43/ 44/
45/ 46/ 47/ 48/ 49/

~真純くんの事情~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/ 10/
11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
本家サイトにて公開中(R-15)





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