four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 42


「そろそろ閉めようか。もう0時過ぎたわよ」
「そうね。ありがとう」
母の通夜には、大勢の人が来てくれた。
ほんの一時間ぐらいまでは、母との最後の夜を過ごす客人たちでいっぱいだったが、今は手伝いで残ってくれている詩織とふたりきりになっていた。詩織は、花屋の土間に降りるとシャッターを閉め始める。だが、半分ほどでその手を止めた。
「葉子…、真純さんよ」
言いにくそうな彼女の声が聞こえたかと思うと、シャッターをくぐる真純が部屋から見える。
彼は、店に入ると深々と一礼した。


「ご焼香させてもらえるか?」

「…どうぞ」


彼は、ブラックスーツに身を包んでいる。
私は握りこぶしをつくると、震えるほどにその手を握り締めていた。









真純が、小さな祭壇の前に眠る母の前に座ると、詩織は気を利かせたようにバッグを持ち立ち上がっていた。
「葉子、私一旦家に帰るから、また時間を見て来るわね」
「ううん、午前も過ぎたから、もう帰って。少し睡眠とらないといけないわ。お葬式の受付をしてもらわないといけないし、おばさんにもお世話かけますって伝えておいてよ」
「でも、葉子のほうが休まないと」
詩織は、母が他界し天涯孤独になってしまった私のことを、まるで身内のことのように心配してくれていた。
「私は大丈夫よ。眠れないし、なんだか元気。お線香も絶やさないわ」
「そう。でもね、携帯電源入れてるから、夜中でも朝方でも電話して。いつでも交代できるから」
「ありがとう」
でも、詩織が言うような、眠いなんて感覚は全くなかった。このまま眠らずに、何ヶ月も働けるんじゃないかというくらい元気だった。




私は、母が逝ってから、いろんな作業が待ち構えているもんだと思って気を張っていたが、現実は、どこから聞きつけたのか葬儀社の人が来て、台詞のような言葉をかけられただけで段取りはすべて彼らがこなしてくれた。
私がする事と言えば、葬儀のときに使用するホールや祭壇、棺おけ骨壷をまるで通販本のようなカタログを見ながら決めるだけだった。それはなんだか、あなたは精神的ショックが大きいのだから力も頭も使う必要は無いんだと言われているような気がした。お金さえあれば良いのだと。



祭壇ひとつだって、ピンからキリまでだ。
高い金を出せば、ゴージャスな物で、ケチると見た目に冴えないものを、母に選ぶことになる。
いくら母の魂は、残っていないんだと思っても、最後だからとちょっぴりいいランクのものを選んでしまうのが人の心だった。
足元を見るような商法にまんまと嵌る。
結局は、あの世もこの世も金次第……なのだと痛感していた。
「…じゃ、帰るね」
「おやすみ」
詩織は、後ろ髪を引かれるように何度も振り返りながら花屋を後にする。
詩織がいなくなると火が消えたように、寂しくなった。





私は、ぼんやりと真純の背中を見つめていた。



焼香を終えた真純は、母の前で手を合わせ随分と長話をしているようだった。私は、まるで作業のようにお茶をいれ、彼を待った。
「この度は、本当に突然のことで、どれだけお心を痛められたことかと……」
全てが終わった彼は月並みな挨拶をし、正座のままサラサラの髪が畳についてしまうように深々とお辞儀した。私は、そんな彼の姿を睨みつけることしか出来なかった。
「……葉子さん、申し訳なかった。お母さんは、花屋の買収話を、父が送りこんだ土地買収のスタッフから聞いていたみたいなんだ。会ったのはただの一度だけだというが、お母さんは覚えていたんだろう。僕が名刺を渡した時点で、何しに来たのか分かっていたんだと思う」


そんな前から真純の正体を知っていただなんて、よけいに悲しくなった。母はどんな思いで私たちを見ていたのだろう。なぜ、最後になってあんなことを言ったのだろうか。


「母は、私に土地を譲れって言ったのよ。もう守らなくてもいいんだって……そんな前から知っていたなら、どうして今頃になってそんな事を言うの?本当に、あなたは母と何も話してないの」
「ああ、FIEのことは何も」
「ということは、母が欲しがっていた花束で、買収を煽ったということなの?」


頭を下げていた真純が、顔を上げた。


すごく苦しそうな表情をしているのを見ると、思わず目をそらしたくなった。
「僕自身は、誕生日のお母さんに喜んでもらいたかっただけだった。花束をもらうというお母さんの初めてを僕が努められたらいいと思ったんだ」
「でも、それがいけなかったんじゃない……。母はね、死ぬ間際まで買収のことを考えていたのよ。遺言が土地だなんてあまりにも酷すぎるわ。母を追い詰めたのは、あなたよ!」




言ってはいけないことを言ってしまって、私は口を手で押さえていた。
彼は、買収のことを煽ったつもりでもなく、母も決して無理強いされたわけではないのだ、そんなこと痛すぎるほど分かっていた。
だが、告知よりもあまりにも早過ぎた母の他界。ぶつけようがない悲しみと怒りは、一番信頼していた彼に向けるしかなかったのだった。

「ご……、ごめん。言い過ぎた。ほんとにごめん、追い詰めただなんて」

ひどいことを言い続けている自分に気付き、涙が溢れ始める。真純は、穏やかに笑うと首を横に振った。
「そういわれても仕方がない。君の言うとおり、僕の存在はお母さんに無言のプレッシャーを与えていたんだ。本当にすまなかった」
「真純さん……」
彼の言葉を否定することは出来なかった。
涙で霞をかけるように真純の姿が消えてゆく。こんなに近くにいるのに心の距離だけが遠くに遠くに離れていくような気がした。










「葬儀は、明日の14時。梅光苑だったね。父もロスから帰ってくるから、ふたりで葬儀に参列したいと思ってる」
「ありがとうございます」
真純は、背中を見せながら、土間に並べてある革靴を履くと私のほうに向かい一礼した。キリリとした表情は彼の仕事の顔、最初は嫌悪感を感じたこの表情も、いつのまにか好きな表情のひとつに加えられていたことを初めて知った。
「羽並さん、本当に申し訳ありませんでした。14日の説明会でお話するつもりにしていますが、土地開発に関しては白紙の方向でお話をさせていただこうと思っています。なにせ突然の報告となりますので他の商店街の方からの攻撃も考えられます。はなみ花屋さんにはご迷惑がかからないように全力を尽くしたいと思っております」


「白紙…!」


突然の報告。私は驚きの声を上げていた。










第43話へつづく














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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
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~真純くんの事情~
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11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
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