four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 32


母が入院している病院は、自宅からふた駅の、有名百貨店が軒を連ねる大通りの一角にある。
私はウインドショッピングをした後、とある百貨店の中にあるカフェに入った。一番安い珈琲を頼み、ガラス張りのカウンター席へと座る。大きなガラス窓の向こうには一流ブランドショップがズラリと並んでいて、通る人はいかにも高そうなコートや毛皮を羽織り、手にはショップのロゴが書かれた袋を持ち私の前を通り過ぎていった。
私は、芯から冷え切った身体を温めるため、息を吹きかけながら熱い珈琲を口に含む。
そして、ぼんやりと通りゆく人々をウォッチングした。ほとんどは恋人連れか家族連れ、後数時間で訪れるクリスマスに心弾ませているようだった。


― いいなぁ。


急に、寂しさがこみ上げた。
慣れているとはいえ、こんな暖かい世界を目の前で見てしまうと羨ましくて仕方がなかったのだ。
真純とふたりで歩く図が、頭の中に次々と湧き出てくる。空しい空想……頭を振り消した。




私は、カップを手に取り、またぼんやりとガラスの向こうの世界に視線を向ける。ちょっと厚みのある紙カップに口をつけようとして止めた。
瞳はある女性に釘付けとなっていた。彼女が持つ袋に意識を集中させて……。


それは、GUCCIと書かれたペーパーバッグだった。


真純の使っている香水と同じブランド。
同時に、脳の記憶が開放されたかのように、彼のフレグランスの香りが蘇る。
まるで走馬灯のように、彼とのキスシーンが頭を駆け巡り、胸を熱くした。
気持ちが急く。軽い火傷でぴりぴりする喉に珈琲を全て流し込み、カフェを出る。
そして、強力な磁石で引き寄せられるように、GUCCIのショップへと向かったのだった。







私は生まれてこのかた、ブランド品を身につけたこともないし、もちろんそういうお店にも入ったことがなかった。
百貨店の一階にずらりと並ぶ高級ブランドのお店を見て、ちょっとひいてしまう。どこの店も上品な雰囲気が漂っていて、ショーウィンドウには、バッグや腕時計、靴などが並んでいた。その値段は、一瞬では分からないような値段……、十単位や百単位のものまで。
だけど、あのフレグランスだったら誕生日プレゼントとして渡せるかもしれないと思っていた。駄目だとしても自分で香りを楽しむことも出来るし、だが。



― ど、どうしよう……入りにくい。

まさかこんな展開になるとは思わなかった私は、ショーウインドウのガラスで自分の姿を確認した。
「ああ」
思わずため息をつく。
一点の曇りもないくらいに磨かれたガラスには、数年前のバーゲンで買ったファー付きのブルゾンジャケット、ニットのセーターにジーンズスタイルというカジュアルな格好の女性が映っている。


そう、私。


カジュアルしすぎて、入店拒否でもされるんじゃないかと不安になるほどだった。こんなことだったら、もうちょっとお洒落な服を着てくればよかったと後悔した。




「いらっしゃいませ」
店の前で立ち往生する私に気が着いた女性店員が、落ち着いた声を上げる。目が合うと、にこりと笑った。
「何かお探しですか?」
後戻りも出来ず、私も笑い返してみる。
「どうぞ、店内もご覧になって下さい」
きっと、庶民の入り辛さが分かるのだろう。彼女は、微笑みかけながらそう言ってくれた。
買えないなら出ればいい、そう言い聞かせながら店に入ってみる。店に入ってみると、数組の若いカップルがいたのでちょっと安心した。
「あの……、男性用のフレグランスでラッシュフォーメンというのはありますか?」
髪をきっちりとあげた店員さんが、笑顔を向けながら接してくれた。でも、商品名を聞いた彼女は、残念そうな表情に変わった。


「そちらの商品でしたら、廃盤になりまして現在こちらでは取り扱っておりません。申し訳ございません」


え、廃盤?ないと思うと無性に欲しくなるのは私の性格の歪みだろうか?
「どこに行ってももう無いのですか?」
その女性店員は、廃盤と言うことを聞いた愛好者たちが元々希少だったものを買いあさり、ネット上でも売り切れが続いているのだと言った。
「ラッシュフォーメンはございません。プレゼントでしたら、香りは違いますがこちらの商品も男性に人気の商品でございます」
彼女が掌に乗るくらいの香水を持ってきて、見せた。
それでは意味がなかった。
それじゃ、真純に渡せないどころか、彼を感じるという変態チックな事さえも出来ない。
でも、廃盤ではどうしようもなかった。
「そうですか……。また改めて出直してきます」
私は、仕方なく諦めることにしたのだった。



「何、平井。ラッシュを探している人がいるの?」



踵を返そうとした瞬間だった。突然聞きなれた声が私の背後から聞こえてきて。
振り向くとそこには真純がいた。
黒のロングコートを着て、襟元にはワインレッドのネクタイがチラリと見える。夢ではなかった。
「あれっ?葉子さんじゃないか。何、君ラッシュを探してるの?プレゼント」


「ま、真純さん」


まずい、妄想の張本人と出会ってしまった。どうしよう、なんて言ったらいいこういうときは。
「お、叔父にあげるの」
咄嗟に嘘をついてしまった。もちろん、母も父も一人っ子で叔父なんていない。さすがの真純でも、私の親の兄弟まで調べていることはないと思った。
「あ、そう。じゃ、平井。僕の分彼女にあげて」
「いいの?真純。たぶんもうどんなコネ使っても手に入らないわよ」
「構わないさ。包んであげて」
有頂天で気付かなかったが、どうやらこのふたりは知り合いらしい。それも結構いい雰囲気、美男美女のカップルそう言っても違和感はなかった。
「それではお客さま、中のお部屋へ案内いたします」
「あ…あの……ちょっと待ってください。それはおいくらなのですか」
ずっとずっといつ言おうと構えていた言葉。あああ、恥ずかしい。貧乏丸出しだ。それも真純の前で……穴があったら入りたい気持ちだった。
「6500円でございます」
セーフ!買える。よかった。買えるんだ。帰りの電車賃を残しなんとか足りた。
「大丈夫?なんだったら僕が」
「いいんです!買えます」
つい声を荒げてしまったが、プレゼントなのに彼に買わせる訳にはいかない。
だが、真純は言葉を荒げる私にあきれることなく、叔父さんは葉子さんに好かれているんだなと笑みを返してくれた。



「またのご来店をお待ちしています。ご健闘をお祈りしています」
私にGUCCIのペーパーバッグを手渡した平井は、こっそり耳打ちした。きっと彼女の勘が働いて、このラッシュを真純に渡すことに気付いたのだと思った。
真純のためのラッシュフォーメンをやっと手に入れた。まだ店内に残る彼のことが気になりながらも、彼を待ち、ぼうっと立ち尽くすわけにはいかずショップを出たのだった。


私は、さっき立ち寄ったカフェを通り過ぎる。


すると、あとから追いかけてきた真純から声をかけられた。
「葉子さん、外は雪が降ってるんだけど、傘は持ってきてるの?」
「えっ!雪?」
私は、急いで玄関まで出た。
そこはボタン雪が降り続き、街中が真っ白な銀世界となっていた。
「うそ……」
「電車も止まってるし、タクシーも捕まらない。文字通りホワイトクリスマスになりそうだ」
「えーっ、帰れないじゃない」



確かに今日は凄く寒かった。カフェに寄った後から雪が降り出したのだろう。
『ホワイトクリスマス』恋人たちにはロマンティックなものかもしれないが私にとっては、迷惑なだけ。地下鉄だって、うちの商店街までは通っていないし、あるけばゆうに一時間以上はかかと思うと、途方に暮れるしかなかった。
だが、そんな私の焦りを無視し彼は、肩を叩いて言った。
「まっ、いいじゃない。ご飯食べたの?何か腹ごしらえしないと凍死するよ。行こう」
悠長に彼は何を言い出すのだろうか、プライベートな関係は避けたいんじゃないのか。
「ち、ちょっと真純さん」
「えっ?もしかして叔父さんとデート」
彼は本気でそう思っているようで、怪しげな視線を投げかけた。
「違うわよ」

「あ、そう。じゃ行こう」
すぐ、彼のペースに巻き込まれてしまう……。
でも、本当にこんなふたりの場面を作ってもいいのだろうか。私はそう思いながら、彼の背中を見る。真純にぐいぐいと腕を引っ張られながら、百貨店を後にしたのだった。







第33話へつづく










明日は更新できませんので、今日UPさせておきます♪



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(かなりの確立で更新の後押しとなりそうです。。。笑)
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コメント

大好きです

もう、この小説が大好きで毎日遊びに来ては、更新されているかチェックするのが日々の楽しみの一つになっています。
これからも、頑張ってください。

ありがとうございます~☆

あみーなさん♪

初めまして、管理人のまるこです!『わた彼』を読んで下さって、それにコメントまで残してくださって、ありがとうございます~~♪
『わた彼』気に入っていただけてますか~。。。感激だなぁ!!
私個人も、今凄く力を入れている物語のひとつなので、そう言っていただけると、嬉しいです。

この『出会い編』季節に乗っておりませんが(笑)、正月後の説明会で最終話となります。と。。。なると、先は結構見え始めているかな……なぁんて(笑)
『恋人編』を楽しみに、これからもハラハラなふたりを堪能してくださいませ☆
あみーなさんの応援を力に、頑張ります!

よかったら、また遊びに来てくださいね~~☆

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鍵コメでのお誘いありがとうございます。しかし、当方には興味のない分野なので。。。

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まるこ

Author:まるこ
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心の景色を文字にするのが大好きな
管理人。
『春夏秋冬』(R-15)

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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/
10/ 11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/
17/ 18/ 19/ 20/ 21/ 22/ 23/
24/ 25/ 26/ 27/ 28/ 29/ 30/
31/ 32/ 33/ 34/ 35/ 36/ 37/
38/ 39/ 40/ 41/ 42/ 43/ 44/
45/ 46/ 47/ 48/ 49/

~真純くんの事情~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/ 10/
11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
本家サイトにて公開中(R-15)





拍手御礼!

拍手をいただきありがとうございます。皆さんに楽しんでいただけるようこれからも頑張ります!

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