four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 25


それは、うちの商店街に建設予定のFIEの見取り図だった。


「ようやく、正式に決まったよ。詳しくは次回の説明会で話をするけど……ここは一階の受付。今日行ったFIEは父が担当したから店舗は入ってないけど、ここには雑貨関係の店舗を入れるつもりだ。多美子さんや塩崎さんは、駐車場の一階に出来るスーパーの中に入れたいと思う。で、君の花屋はここ」
そこは、一階の入り口だった。
ここだったら、自然光も当たるし花も綺麗に飾れるだろうと言った。
「君の花屋を入れたくて、ずっと交渉しようと思っていたんだけど、葉子さん資料も見てくれないからさ……参ったよ」
彼はこれが言いたくて、私にずっと資料を持ってきていたんだと思った。最初のFIEの印象だけで、頑固に構えてしまっていた自分が恥ずかしくなった。
「すごい……こんなことまで考えてくれていたの。私、あなたから敵対心をもたれているとばかり思っていたわ」


真純は、『確かにひどいことばかり言ってきたからな』と前置きする。


「葉子さんの事、うちの強面のスタッフから聞いていたんだ。君は土地開発に関しては、頑固一徹で全く話を聞いてくれない無関心な人だと。だから僕は、あえて君に挑戦状を叩き付けた。わざと君の癇に障るようなことをして、目を向けさせようとしたんだ」




その思惑は、きっと成功したのだと思う。
強い怒りのエネルギーを出してくれたからこそ、彼と対等に向き合うことが出来たのだと思う。
「だけど…、今回の買収のやり方は失敗だと父からは怒られているよ」
「どうして?失敗じゃないわよ。少なくとも最後の砦である私が、説明会に行くことになったのよ」
「確かに」真純はそう言うと焼酎のお代わりを頼んだ。
「だが、君への交渉は、僕が初めて交渉した老舗旅館のときと同じ。それは、買収相手に人間としての情を持ったことなんだ」
「人間としての情?」
君の好きな人情だよ……真純はそう付け加えた。









「その時のことを考えると、今でも夢に魘されるんだ」


彼が土地買収をはじめて任されたのは、大学卒業してすぐのことだった。
都市の中心地に立つ老舗の高級旅館。昔は泊り客も多く繁盛していた旅館であったが、その街が都市化するにつれ、気軽な値段でに止まれるシティホテルやビジネスホテルに客足を取られ運営が厳しくなった。借金もかなりの額抱えていて、客も月に1件あれば喜ぶくらいに窮地の状態だったという。


一番良い方法は、FIEの条件をのむこと。


その最高の条件は、どんな素人の経営者でも、その答えをはじき出せるくらいに魅力的なものだった。だが、その経営者は十代続く老舗旅館を自分たちの代で終わらせたくないと言い張ったのだ。泊り客が増えれば、呆れて出て行った息子夫婦も帰ってくると、まるで夢のような話をした。
「儲けよりも人情だったんだよ。各界の著名人が泊まった由緒ある旅館を、彼らは一般人のために、質を落とすことなく宿泊費を下げた。だがそれは逆効果で、高級旅館は安旅館のイメージへと落ちたんだ。由緒ある高級旅館の看板はあっという間に意味のないものとなった」


「……経営者向きではなかったけど、人としては本当にいい夫婦だったのにな……」


真純は、焼酎を一口飲むと、酔いが回り充血し始めた瞳を私に向けた。
彼らは、真純にご飯をご馳走してくれたり、あるときはお小遣いと言いながら5千円札を渡そうとした。
身の上話をしたり、一人暮らしだった真純の身の心配をしたり、まるで、自分たちの息子のように接してくれたのだ。
「仕事に関して僕はまだ未熟だったから、身内のような情が湧いて……その人たちの気持ちを無視できなくて、僕は買収を諦めたんだ。銀行も貸してくれないと言うから、FIEと馴染みのある銀行を口利きした」




だが、それから一ヶ月後のことだった。仕事の途中に旅館に寄った真純は閉館し売り出しの看板が掲げられてることを知ったのだ。
後に聞いた話だが、夫婦はヤミ金融に長い間手を出していたとのことで、借金の総額はどうあがいても彼らには返せないくらいの金額だったという。
真純が旅館を訪れたときには、既に自殺を考えていたのかもしれない。彼が口利きした銀行にも結局借金することもせず、一週間後無理心中を図ったというのだった。



「おやじに息が出来なくなるまで殴られたよ。借金の全額返済は無理だとしても、買収を受けていれば細々と暮らしていける程度には減らすことが出来たんだとね。僕は、自信をなくした。だから、買収に一切の情を捨てたんだ。これまでに卑劣なやり方もしたさ。反感も買ったし、追い詰めすぎて自殺されそうにもなった。だが、僕がやっていることは、体当たりの真剣勝負。情を出せば相手に引き込まれて終わり。結局は、相手のためにもならないんだ」


「なぜか分かる?」彼はいつのまにか仕事モードになっていて、私をきつく見つめた。


「僕らが買収する土地は、立地条件のよさ、そして、個人では返済が出来ないくらいに借金を持つ土地を選んでる。君のところの商店街だって同じさ」
普通に考えれば、多額の借金を持っている弱者をわざと選び出しているということになる。それにしては、FIEが提示してくる条件はあまりにも良過ぎて……。
「もしかして、あなたの会社は、私たち経営者にとって救世主だっていうの?」
「さあな……、僕らは僕らで君らの土地を買って十分に利益を得るんだから、そんな綺麗なものではないだろう」




真純は、グラスに口をつけ、そして大きくため息をついた。
「父はね、今回の君と僕との関係は、その夫婦と僕の関係に似ているって言うんだ。深入りした情のせいで、買収は成立しないんだとね」






第26話へつづく









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目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
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~真純くんの事情~
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11/ 12/ 13/ 14/

~恋人編~
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