four seasons ~恋人たちの午後~

気の向くままに文字を綴ります。。。

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私の彼は副社長 2-14


『母はね、死ぬ間際まで買収のことを考えていたのよ。遺言が土地だなんてあまりにも酷すぎるわ。母を追い詰めたのは、あなたよ!』
羽並の母の遺影の前で、僕は葉子より罵られていた。
胸が痛い…痛くてしょうがない。それは、己の痛みであり…彼女の心の痛み。僕は、正座したまま彼女の顔を見つめていた。







これが夢であることは、すぐに分かった……そう、今までのことも。
実際あったことが、夢として思い出されているというわけだ。まるで走馬灯のように、目まぐるしく。それからも、葬儀から羽並の店の買収解体、そして、空港での別れまで、僕は観衆のひとりとして、夢の中の映像を見ていた。








「当機は間もなく……空港に到着いたします。只今の気温は摂氏……度、天候は晴れ……」
僕は、そんな機長の声で起こされた。
久し振りの母国、窓に遠く見える滑走路に葉子の面影を見る。
FIE初めての海外進出となるロスの買収も滞りなく終わり、これから予定されている他の国の買収も全て担当のスタッフに任せてきた。
これまでいろんなことがあったが、ようやくこの地に落ち着くことが出来ると思うとホッとする。副社長の仕事は忙しくても、彼女と過ごす時間は以前より増えるのだ。
これからは、彼女が嫌がるくらい一緒に過ごす。毎日のように愛を囁いて、彼女に触れる。いろんなことを考えるとこれからの生活は薔薇色になること間違いなしだった。



はなみ花屋があった土地は今、新しいFIEを建設中だ。
その間、花屋は借り店舗で営業中。僕が以前教育係として入ったFIE支店に小さな花屋を出し、かしましの受付嬢3人と毎日のように仲良くしているらしい……そう手紙に書いてあった。
彼女らは、また昔のように仕事をサボっているんじゃないかと、不安にもなるが。
それだったら、教育のやり直しになるだろう……。














「はい、今到着口を出ました。じゃ、待ち人がいるのでこれで電源を切ります」
携帯電話の中で『おい、真純!!電源切るのか』と慌てる社長がいた。
『お前が、ロスに行っている間、私はずっと……!!』
父の声を、プチンと切る。
「休みなのに、電源入れていたら意味ないじゃないか」
久し振りの恋人との再会。だから、今日は葉子のために丸1日休みを入れていた。それなのに束縛されるなんて、とんでもない。
僕は、鉄の塊と化してしまった携帯にそっとKissをする。たまには気を利かせてください社長…と呟きながら。


「真純さん!」


ざわざわとした到着口に、よく通る女性の声が響いた。もちろん、僕の恋人羽並葉子。ピョンピョンと飛び跳ね大きく手を振っている。
周りの視線も気付かぬ彼女の行動は相変わらずで、まるで子犬のような一途な仕草はとても可愛いいと思えた。
「葉子さん!」
僕は前を歩く人を次々に追い越し、早足で彼女の元へと近寄った。
待ち焦がれた彼女の手を捕まえると、グイッと引き寄せる。ぎゅっと抱きしめると彼女の口から嬉しいと言葉が漏れた。
それは、生で聞く温かく柔らかな声だった。

「久し振り……だ」

彼女の温もりを噛み締めながら、彼女を腕から解放す。
「私達、何年もの間離れ離れになってた恋人みたい。小説のようだわ」
「半年も合わなかったんだ。電話で話すこともさえ出来なかったんだから、当たり前だろ」
彼女は、自宅を失ってから近所の木造アパートに住んでいた。テレビも電話もない生活、連絡はもっぱら手紙のやり取りで。
なのに、葉子の方は冷静だった。僕の心はこんなにドキドキしてるのに。握り合うこの手だって離したくないくらい。それなのに。
「それとも、もっとロスに滞在して欲しかったのかな?1年、それとも2年?もっと小説に近いドラマチックな経験が出来るよ」


だから、ちょっと彼女を困らせてみた。


彼女に思われているってことを、態度で知りたかったのだ。案の定、彼女は頬を膨らませ拗ねた。
「意地悪ね。会いたかったに決まってるでしょう!」
「分かった分かった」顔を反らした彼女を宥めながら、「こっちの買収も全て任せるつもりだから、これからは今まで以上に会えるよ」と言葉を付け加える。きっと、彼女への最高のプレゼントになるだろう。
「ほんと!」
案の定、太陽のように明るい笑顔が弾けた。そして、もうひとつ。
「今日は、誰にも邪魔されることはない。携帯の電源切ったから」
「ええっ!!いいの?」
僕の手を握り締め喜ぶ葉子の姿が見える。きっと、男は女性のこんな姿を見たくて、あれこれと奉仕するんだなと感じていた。
「いいの。僕の身体は1日君のものだ。ご自由にどうぞ」
「きゃ」
普通に言った言葉は、彼女には刺激が強すぎたのかもしれない。顔を真っ赤に火照らせ俯いた。苛めるのも面白い。
「じゃ……じゃあね。私ジェットコースターに乗りたい!」
「ええっ!」
突然の申し出に彼女の手を離していた。僕はいかにも花束とジェットコースターが苦手なのだ。小さい頃妹と乗って吐きそうになったトラウマを引き摺っている。
「ジェットコースター…か」
大の大人が怖いとはいえないし、今日は彼女のために時間を使う予定だった。仕方がない。
「……分かった。じゃ、行こうか」
既に足がすくんでるようだった。だが、気を引き締め彼女の肩を叩いた。
「あっ、それとね。真純さん!」
「何」
次は何?まさか観覧車にも乗るとか言わないよな。
「真純さんも、電話に出れないときは携帯の電源切っちゃう人だったわよね」
「えっ」
葉子は、前に一度そんなことがあったでしょと付け加えた。
どうやら魚住鮮魚店の娘が合コンに行くために電源を切ったらしく、バレて彼氏と喧嘩になったらしいのだ。
「携帯持ってると自由がない。悪いことも出来ないってことね」
「そ、そうだね」



そう、すっかり忘れていた。
僕はあの日、元カノの亜紀と一緒に過ごしていたのだ。そして、僕がいない時にかかってきた葉子の電話を亜紀が切り、着信記録を液晶から消した。
彼女は未だにそんなことがあったなんて知らない。仕事の忙しさで携帯を切ったのだと信じている。
言うべきなのか…。
「葉子さ…」
「なに?真純さん」

でも…。


― よりを戻して……。

― 私……やっぱりあなたが好き。あなたの気持ちを取り戻すように…頑張るわ!


亜紀の言葉を思い出す。罪悪感で胸がチクンと痛くなりながらも、葉子の心に余計な波風は立てたくなかった。
なぜなら僕は、彼女だけを愛しているから。
「葉子さん、もしかして心配してる?」
「そ、そんなことないわよ」
「僕が、この携帯の電源を切るときは」
「エレベーターの中か、山の上でしょ?」
そうそう…。それと。
「酒を飲んで正気じゃない時だ。それ以外は、ずっと繋がっているよ。もし、合コンしたとしても出るから心配しないで」
「えっ?それって合コンするってこと?」
「いや、それはないと思うけど……例えばだよ、人数合わせとかだったら…」
「ええっ!」
そういう集まりでもオープンにするから心配するなと言いたいのに、どつぼに入ってしまった、なんだか場が気まずくなる。
「だから…」
僕は言葉を捜しながら、頬を膨らます葉子を黙らせるために彼女を引き寄せ、唇を塞いだ。周りから僕らを冷やかす声が聞こえたが、構わなかった。
「例えどんな事情があっても、僕は一途に君を思い続けるということ……だから、心配しないで。葉子……」
葉子のうっとりとした瞳が、すぐそこに見えた。僕は掴んだままの彼女の肩に力を入れる。


「愛してるよ」


彼女の瞳がゆっくりと閉じると、再び唇を塞ぐ。

― だから、葉子……。

― 何があっても、この言葉を信じ続けて欲しい


葉子の柔らかな唇の感触をゆっくりと味わいながら、そう心で呟いた。














                                  おわり









皆さま、お疲れ様でした!
次回からは、お待ちかねの恋人編!
ふたりのあまあま、ハラハラストーリーが始まります。(R-15)
お楽しみに。。。
いい男を彼に持つと苦労します。。。頑張れ葉子! 


本家サイト好評連載中の
恋人編(R-15)。。。読んでみる

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私の彼は副社長 2-13


「お連れ様がお待ちです」


店に着いた僕は、女性店員に誘導されながら中庭の石畳を進む。そして、細い階段を上がり、個室へと通されていた。
この隠れ家的なプライベートルームは、黒を貴重とした都会的な雰囲気の部屋だ。間接照明とテーブルの上にあるランプの光は、客の心をしっとりと癒してくれ、広くとられたガラス窓からは、一階バーの明かりだけが見えている。



「ごめん、遅くなった。平井何飲む」
「私は、バーボンサワー」
スーツのジャケットを脱ぎネクタイを緩めながら、僕はガラスのテーブルについた。
「僕は、麦焼酎で。ある?」
「はい、ございます。銘柄は……」
最近は、飲むにしろ焼酎ばかりだ。次の日に残りにくいのが一番いい。そんなことを思いながら、いつもの銘柄を頼んだ。
「さて平井、呼び出し喰らうまで付き合ってやるよ」
「呼び出しがかからないように、祈らないとね」



朝より少し落ち着いたのだろうか。
彼女は、痛々しげな頬を庇うように少しだけ微笑んだ。化粧をしてはいるものの、真っ赤になった瞳と腫れ上がった左頬はこの暗がりでもよく目立つ。
「随分こっぴどくやられたもんだな。もちろん、やり返したんだろう?」
「あたりまえよ。倍に返してやったわ」
亜紀はそう言うと、テーブルに置いていた僕の手をそっと掴み、腫れたほうの頬に当てた。外気温に晒された僕の手は彼女にとって心地よかったようで、『冷たい』と呟いてそっと目を閉じる。
「貰った指輪も作ってきたウェディングドレスも、あの人のマンションの前に全部捨ててきちゃった。そしたらね。胸がスカッとしたわ」



彼女は、そのまま経緯を話し始めた。
真純と別れた勢いで、飲み屋で出会った彼と付き合い始めた。それなりに仕事も認められて、自由が利く。温かい家庭が作りたいと話す彼に、結婚するには最適な人だと思ったのだと言った。
「彼と結婚して、あなたに幸せな自分をアピールしたかったの。心の絆だけじゃ駄目なのよって、あなたに訴えたかった。でも、そう考えること自体、あなたを意識し続けていたのよ。もっと早く、気付けばよかった」
「えっ?」
亜紀の意味深な発言に、首をかしげ見返す。だが彼女は僕の手を離し、何もなかったかのように、店員から酒を受け取ったのだった。
「さあ、飲みましょう」
結局その意味について、彼女は答えてくれなかった。




「呑まれるなよ」
「分かってるって!」
 昔から酔うと陽気になる彼女、さすがに今日は絡み酒となっていた。だが、デザイナーの男のことじゃなく、なぜか、僕の愚痴ばかりを言っている。
「だから、あなた人が良すぎて悪いのよ!お父さんから何でも仕事を任されて……おかしいわよ。なんで副社長の真純くんが、人一倍仕事して、挙句の果てに土地の買収なんてしないといけないのよ。普通、書類に印鑑ポンだけでしょう。社長って名のつく人は!」
「テレビの見すぎだ。平井」
と言うものの、確かに買収に関しては自分がしなくても良いような気がした。それさえなければ、空き時間が出てくる。葉子に寂しい思いをさせることも少なくなるのだ。
「だけど、君の言うことは一理あるかもしれないな…」
心の絆だけでは、やはり苦しいことも多すぎる。


……ふと、葉子の寝顔が浮かんできた。


「でっしょう!!ほら意見も合ったことだし、注いであげるからあなたも飲んで。私のお酌を断るなんてしないでよね」
完全酔っ払いの亜紀は、スクッと立ち上がると僕の席の方へ歩き始める。千鳥足の彼女、テーブルにぶつかりそうになりハラハラさせられた。
「ほら、もういいから。危ないだろう」
だが、僕が立ち上がったのと彼女が躓いたのは同時だった。スローモーションで、彼女が胸の中に倒れ込んでくる。身体が条件反射をおこしたように、己の胸に彼女を受け止めていた。


「rush ……」
「えっ?」
「GUCCI rush for men.……あなたの香りが、懐かしい……」


僕は、彼女の呟きで我に返った。
彼女の肩を持ち離そうとするが、亜紀はワイシャツを掴んだまま離してくれず、そのまま顔を埋める。
「真純くん……より戻そう…」
「平井……」
「亜紀よ……平井なんて、もう呼ばないで」
ツンと胸が痛くなった。
この言葉を、もっと早くに聞いていたならば、状況は変わっていたのだろうか。だが、今の僕は彼女を恋人として隣に置くことなどイメージできなかった。
結局、僕らはすれ違う運命だった。
どんなに燃え上がる恋をしても、ふたりの足並みが揃わなければ終わりなのだ。すれ違いに怒りをぶつけたあのクリスマスの別れが、本当の別離だった事を痛感した。
「平井…、もうよりは戻せない。あのクリスマスの別れから僕らは違う道を歩み始めたんだ」
亜紀は、その言葉に悲しげな瞳を向け、そして、一枚のメモを僕に見せた。それは、葉子が僕に書き残した手紙だった。
「どうして……」
「あなたのハンカチの中に入っていたのよ。違う道って、あなたはあのGUCCIのショップに来てた子と一緒に歩いてる…、そういうことなのね?」
葉子の姿が脳裏に浮かんだ。
「ああ、そうだ」
驚きの表情をしている亜紀に、僕はそう返答した。



「ふう…」
トイレだと席を立った僕は、バーの外に出ていた。
外の空気を沢山体内に取り込んだ僕は、葉子に電話をかけようと思い、スーツのポケットを探ろうとして頭を抱えてしまう。ジャケットは、バーに置いてきたままだった。公衆電話を使うにも財布もない。
結局、10分ほど風に当たり彼女の元へと戻った。


「何も電話はなかったわよ」


スーツのジャケットを探り携帯電話を取り出した僕の手を掴んだ亜紀は、携帯を奪い「ほら」と液晶を見せた。
「きっと神様は、私に味方してくれているのね」
勝ち誇った表情で、携帯を戻される。
彼女の言うとおり、FIEからの電話も、そして電話番号を教えた葉子からの電話も入ってはいなかった。彼女だったら、かけてくると思っていたのに……その自信はただの自意識過剰だと知り、ちょっと、ショックを受ける。
「そうみたいだな……」
「やけに残念そうね。あの彼女から連絡待ってるとか……図星?」
心中愉快だと言わんばかりに、グラスを合わせ乾杯を求めてくる。
「いいだろう」
「ふうん、でも言っておくけど、彼女あなたには似合わないわよ」
「えっ?」
亜紀は、こっちを睨みつけながらひとくち酒を口に含んだ。
「どう見てもバランスが悪すぎるわ」
「何だって」
意地悪そうに、だが彼女特有の色っぽい目つきに変わる。そして彼女はこう言った。
「あなたは気付いてないかもしれないけど、真純くんって女性に優しすぎるのよ。モテるあなたに、地味で男性には疎そうなあの彼女。ハラハラして毎日を過ごすことにいつか彼女が疲れるわ」
「だったら君もそうだったのか?」
「私?私はモテたから……あなたと並んでも見劣りはしない」
「まったく、人の彼女のことを散々に言うな」
まぁ、確かに彼女は地味な方だ。顔だって性格だって……だけど。
「でも、彼女と接していると凄く癒されるんだ。他の女性と接している僕とは違うことを、彼女はきっと分かってくれるさ」
亜紀は、瞳を大きく見開くと僕をじっと見つめていた。
「どこまで気付いてくれるかしら」
クスッと意味深な笑いを浮かべた彼女は、酒をグッと飲み干す。
「真純くん、注いで。とことん付き合ってもらうから覚悟してよね」
私を振った罰として……彼女は、そう付け加えると楽しそうに笑ったのだった。






……結局。
亜紀が僕を解放してくれたのは、ビル群が陽に照らされ始めた頃だった。
彼女は別れ際、こう言った。
「私ね、こないだ彼女に頑張れって言ってやったわ。てっきり片思いだと思ってたし……だけど、前言撤回。やっぱりあなたが好きだから、真純くんの気持ちを取り戻すよう頑張る!」
「平井……何言ってんだよ。僕は…」
「人の気持ちに永遠なんて無いってこと、あなたも知ってるでしょう?一年先のことなんて誰にも分からないのよ」
あれだけアルコールを飲んだにもかかわらず、あれほどの出来事があったにもかかわらず、亜紀は果たし状を突きつけると笑顔でタクシーに乗り込んだ。


女性というのは、実は怖い生き物なのかもしれない……。


タクシーのテールランプを見つめながらため息をついた僕は、スーツのポケットから携帯を取り出す。
だが、FIEからも葉子からも着信はなかった。
「僕がロスに行くって言うのに、葉子さんは寂しくないんだろうか?」
僕は、ざわめきが戻る街に向かって呟いた。白すぎる息は、なんだか空しくビルの森へと消えていったのだった。





それから、葉子の着信履歴を見つけたのはロスの地に降り立った後だった。着信を消した亜紀。僕は、彼女の本気をその瞬間理解したのだった。










最終話


















私の彼は副社長 2-12



「平井……どうしたんだ?まだクラブは開いていないけど。平井?」




ショップで出会った時とは違う、一夜にして変わり果てた彼女の雰囲気に驚いていた。
肩は力なく下がり、いつもセンスよくまとめている髪もただ黒いヘアゴムで束ねているだけ、僕の声掛けに振り向いてもくれなかった。


そんな彼女の肩を叩くと、覗き込んでみる。


だが亜紀は、顔を見せるのに躊躇しているかのように、全身に力を入れ顔を反らしたのだ。異常な彼女の行動。心配した僕は、彼女の肩を揺さぶり声かけ続ける。すると、観念したようにゆっくりと顔を上げた。
「平井…!」
僕は、亜紀の顔を凝視できずに視線を反らし顔をしかめてしまった。
彼女の瞳と頬は、真っ赤に腫れ上がっていたのだ。まるで、何度も叩かれたように頬の形は変わり果てていて。
「何かあった……ようだね」
出勤してきたFIEのスタッフが増え、フロアでは話が出来なくなる。
興味深げに視線を向けるスタッフより彼女を守るため、三階の僕のオフィスへと場所を変えることにした。





「インスタントだけど……牛乳を沢山入れておいたよ」
僕は亜紀の前にカフェオレが入ったカップを置くと、真向かいに腰掛けた。肩を落としたままの彼女は、それをひとくち口に含むと溢れ出す涙を両手で隠した。
「真純くん……優しいのね」
亜紀は、僕が差し出したハンカチを受け取りながら、「私、独りになった」と呟いた。
「えっ?」
「あの人、二股かけていたの。イブに女性と鉢合わせしたわ」
「ええっ!」
驚いて声をあげてしまった。
それは、婚約者とホテルでディナーを楽しんだ後だった。部屋へと向かっている亜紀たちの前に、突然女性が現せたのだという。もちろんその後は、女同士がつかみ合う修羅場となった。ふたり我に返ったときには婚約者の姿は無く。
「叩かれたのか?」
腫れ上がった左頬を冷やすために、僕は冷蔵庫へと行こうとする。そんな僕の腕は、彼女により掴まれた。
「今日、一緒にいて欲しい…独りになるといけないことまで考えてしまうの。一睡も眠れなくて、気付いたらここに来ていた」



背筋がゾクッとした。
彼女の置かれた境遇とやつれたこの姿から、『いけないこと』の意味がすぐにはじき出される。ここで、彼女を突き放したらそれが現実化しそうで怖かった。
「僕は、今日一日会議が入っている。待てるならば飲みにでも行こう。酒に頼りすぎるのはいけないことだが、今日は癒さないとな。友人として、じっくり付き合ってやるよ」
「友人……」
亜紀は、潤んだ瞳で僕を見続けている。彼女を前にし、躊躇なく友人と言えるようになった僕は、いつの間にか彼女のことを卒業できていたことに気付いた。
「そう…、分かったわ」
「適当に僕のオフィスで過ごしていてくれ。気晴らしにジムに行ってもいいし……会議が終わり次第迎えに来る」
「じゃ、行くから」僕はオフィスを後にする。扉を閉めようとした時彼女が止めた。
「真純くん!」
「なに?」
「昨日の……あの人…」
「え?」
「やっぱりいいわ」亜紀は、僕の視線を断ち切るとテーブルにうつ伏せたのだった。





夜、オフィスに戻ると平井の姿はなく、手紙だけが残されていた。

― 真純くん、あの店で待ってるわ。

それは、亜紀とよく行っていた店。
プライベートルームがあるバーで、しっとりとした雰囲気がお気に入りの店だった。
「通用口に車を寄せてくれ」
デスクの内線電話にそう話しかけると、ソファーに脱ぎ捨てていたスーツのジャケットを羽織る。内ポケット探ると、亜紀に貸していたハンカチに手が触れた。会議の間にポケットへ戻してくれていたようだった。だが、どこを探してもホテルで書き残してくれた葉子の手紙は見つからなかった。
「あれ?葉子さんからの手紙がないな…落としたかな」
そんなはずは無いのだけれど。そう思いながらも、『なぜ、手紙が無いのか』などと深く掘り下げて考えることなどしなかった。
僕は、父の電話を受けながら通用口を出る。
そして、黒塗りの車に乗り込むと、バーで待つ亜紀の元へと向かったのだった。








第13話








本編3839話の真純サイドのお話です♪
葉子の動きと照らし合わせると、切なくなりますね。。。
最終話は、14話となります!

私の彼は副社長 2-11

― 25歳になったと同時に……開けて。



葉子から貰ったラッシュをナイトテーブルの上に置いた僕は、ふかふかのベッドで眠る彼女の額にキスをした。
寄り添いかけていた心、アルコールの力も手伝ってか、僕らが両思いになるのにさほど時間はかからなかった。
クリスマスイブに彼女を誘いホテルへ、だが、告白後思わせぶりな態度まで示していたのに、結局はFIEの緊急連絡で彼女を独りにしてしまったのだ。本心、僕が帰る頃に葉子はいないと思っていた。
恋人達のクリスマス、そんなときに独りにされる空しさぐらい理解できる。
そんなことの積み重ねで、僕は元カノの平井に振られたのだから。


しかし、彼女の寝顔はそんな空しさを感じさせないくらい幸せそうだったのだ。
もしかしたら、彼女だったら本当に僕の立場を受け入れて付き合ってくれるのかもしれないと思った。末永く一緒に居られる女性じゃないかと。
「僕は、君を守るよ。大切にする」
「う…ん」
「葉子さん?起きてるの」
彼女は、ごろんと寝返りを打つとまるで子犬のように丸くなった。
再び寝息を立て始める。広いベッドに小さく丸まる彼女はとても可愛くて、僕は彼女の横に添い寝した。髪を何度か撫でると、彼女の頭の下に自分の腕を差し入れたのだった。
きっと、朝起きた彼女がこの姿を見たら顔を真っ赤にしてはにかむだろう。僕から彼女への、サプライズなプレゼント返しだった。






「まったく」






次の朝、目が覚めたら葉子の姿はなかった。
一瞬、サプライズなプレゼントが気に入らなかったのかと思ったが、テーブルに置かれた手紙を見てちょっと安心した。


― 素敵なクリスマスをありがとう。起こさないで帰ります。


遅くに帰って来た僕を気遣ってくれた彼女らしい心遣いだったが、チラリとも顔を見せてくれなかったことになんだか子供のように怒ってしまった。
ロスに行く前に彼女の顔を見ておきたかったのに。
 ……そう拗ねるのは、僕のほうが彼女の虜になっているからだろう。













「ああ、母さん」
FIEの玄関に車が横付けされた。
母からの電話を受けながら、FIEの受付を通り過ぎる。
初めはおしゃべりが堪えなかったこの受付も、短期間の間に気持ちを入れ替えててくれ、今や立派に仕事をこなしてくれている。
「千草おばさまが倒れたって?そうか…今日は会議だから明日朝にでも覗いてみるよ。場所は?ああ、分かった」
携帯を切り、エレベーターに乗り込んだ。
ゆっくりと静かな時が流れ、2階へと到着する。スッと扉が開くとカウンターにひとりの女性の姿が見えた。



「ひ…らい……?」



それは、平井亜紀だった。









第12話

私の彼は副社長 2-10


この花屋へ通う度に、自分の立場が仕事だけではなくなってきていることを感じた僕は、焦っていた。
羽並へ対する思いがおかしいと確信したのは、彼女が花の棘で怪我をした時。
指先から赤い血が滲んでゆくのに、なんと彼女は、ビニールテープで自分の指を巻こうとしたのだ。彼女の仕事に対する熱心さは今までのことで十分に分かっている。そんな自分を省みない行動に、僕は待ったをかけた。


「君、何やっているんだ!雑菌が入ったらどうするんだ」


そう彼女を叱りながら、僕は彼女の傷ついた指を口に含んでいた。
『どうして、こんなこと』と心が彼女に問いかけている。雑菌が入って指が使えなくなったら、君の好きなアレンジは出来なくなるんだぞと訴えた。
土地を奪うだけなら彼女の指がどうなろうと関係ないはず。だが、僕は自分の意志で彼女の技を守っていたのだ。


― 僕は、もしかして?


自分への問いに返事を返す暇もなく、その行為は魚住鮮魚店の店主に遮られ、僕の正体を明かされることとなった。
我に返った僕は、外れきっていた心の鎧を整え直す。だが、彼女を煽ってみても冷たい態度をとってみても、僕の行動はカラカラと空回りするばかりだった。



それからの僕は、父に止められながらも、FIEの施設の中に花屋を入れる計画を進めていった。
自分では、もう止められない状態だった。羽並へ向けている情はあの自殺した老夫婦に向けていたものと同じ…それ以上だと父に指摘されても、それが最善策だと押し切る。
『痛い目に合うぞ』
『そうなったら、全責任は僕が持ちます』
情を上回る何らかの気持ちが、全速力で僕の背中を押してゆく。さすがの父も、お手上げ状態でこう言い残した。
『真純、買収相手に恋でもしたか』
『えっ?』
『恋は盲目……ってやつだ』
父は、このとき僕の心を見透かしていたのかもしれない。
自身でもその気持ちに気付いたのは、病院の階段の踊り場で彼女の本当の姿を見たときだった。










妹の見舞いのため、病院の階段を上がった僕は、踊り場で羽並葉子を見つけていた。彼女は全く気付いていない。声をかけようとして、ハッと息を呑む。
日頃の、明るい羽並葉子の姿はそこになかったのだ。彼女の背中は力なく下がり、小刻みに振るえていて……泣いていた。
あの定食屋の店主が言っていた事が思い出される。
彼女の姿からすると、それは本当のことで母の容態は最悪なのものと推測された。『母親が死んだら天涯孤独の身』そう最後に言った彼の言葉が、彼女の背中に重なって胸を切なくしてゆく。
あの老夫婦の件以来、そんな気持ちになることなどなかった。
買収相手の土地や金に関することには興味があっても家庭の詳しい事情など買収には関係のないことには興味もなかった。
同情しているだけだと言われたらそれまでかもしれない。だが、彼女の震える背中をこの身体で包み込みたいと思ってしまうのは、もう同情の域を越してしまった証だと思った。



― 僕は、彼女に恋している。



頭の中でそう言葉にすると、心の中につっかえていた何かが外れた。



― そんな、泣きはらした顔をお母さんに見せるのか。お母さん、辛いだろう。



ほとんど身内のような感覚。僕は痛む胸の内で、そう彼女の背中に訴える。そして、声をかけた。
「あれ?葉子さんじゃないか」
僕は彼女の涙を止めるため、おどけたピエロになることにした。









僕たちは、病院を後にしていた。
羽並の母親は彼女に似てとても気さくな人柄だった。僕らの関係を思いっきり勘違いしていたが、それを別に訂正したいと言う気も起こらなかった。なんだか身内のような暖かいひと時を過ごさせてもらった。羽並の母親の前でも、そして、僕の妹真美の前でも……なんだか優しい気持ちが込み上げてくる。
「今日は、ありがとう。紐の組み方まで妹に教えてくれて、真美は身体が弱いからどうしても気持ちが内に入ってしまうんだ。君のお陰でこれから外に目が向きそうだよ」
花束の作り主の出現に大喜びした妹へ、羽並葉子は四葉をはじめ紐の組み方を幾種類か教えてくれた。
「うちの母を楽しませてくれたお礼と、あなたと違って気の優しい真美ちゃんのためよ。決して、あなたのことを認めたわけじゃないから」
「別に、認めてくれなくていいよ」
羽並葉子のこのひと言は、現実に立ち返らせる。プライベートな雰囲気から、仕事の話に戻るこのひと言を言わせているのは紛れもなく僕だった。

― それがなければ、僕たちの仲はなかなかいいものなのに。

自分の立場がうっとおしい……僕は、そんな気持ちになり、ドキッとした。 プライベートが仕事を呑み込みはじめている…と思うと、ゾッとする。プライベートと仕事の危ない綱渡り、共倒れのシグナルが鳴り響く。この買収が上手くいかないということは、彼女の技を埋もれさせてしまうということ。それは彼女の借金が膨れ上がり、二進も三進もいかなくなる姿を暗示させた。

― そんな道だけは、進ませない!

彼女を乗せるため、玄関前の駐車場に止めてあった車の助手席のドアを開いた僕は、彼女に言った。
「ただ僕は、君の泣きはらした顔を病気のお母さんに見せたくなかっただけなんだ。お母さんの病気、重いんだろう?」



― お母さんの病気、重いんだろう?
 

「あなた、私のことを調べたの。土地のため」
買収話に彼女を向き合わせるため、お母さんを利用していた。
そんなこと昔の自分なら平気でやりのけていたのに、今は胸が痛い。だが、交渉台に踏み込ませるためにはこんな荒治療も仕方がないことだった。
『癌である母親を利用したい』
その極めつけの言葉で、彼女はFIEに宣戦布告してきた。僕に対しても敵だと断言する。彼女を交渉の舞台に引き摺り上げた……全ては思惑通りなのに、逆にどんどん悲しくなる自分がいた。なぜ、好きな人とこんな戦いをしなくてはならないのかと心のバランスがグラグラ揺らぐ。
僕は焦り始めていた。
彼女へ、自分がここまでする理由を知ってもらいたくて、FIEを見せるために彼女を無理矢理車に押し込む。それは余計に彼女の興奮を助長するものとなり……そして、羽並葉子の悲痛な叫びを聞くことになった。


「なにするのよ、電車で行くからほっといて!もう、私の心を乱さないで、敵だったらもっと冷たくして!あなたの車なんかには乗せないで、ふたりっきりなんて、もうよして……辛すぎるのよ」


彼女も、僕への思いと買収を拒否する心との狭間で潰されそうになっていたのだ。僕の心のバランスは崩れ去り、プライベートは仕事を呑み込んでしまった。




「僕だって…」


「えっ?」

彼女は、僕の異変に大人しくなり、涙でぺとぺとになった顔を向けてくる。
「……ふたつの立場で、身を引き裂かれそうな思いだ」
買収相手に告げた思い。
父の言うとおりこの思いが災いして、買収が出来なくなるかもしれない。
だが、僕は心に決めた。
仕事とプライベートを両立してやる……と。



吹っ切れた僕は、羽並葉子へ積極的にアプローチをはじめていた。



第11話

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プロフィール

まるこ

Author:まるこ
オリジナル恋愛小説を運営する
心の景色を文字にするのが大好きな
管理人。
『春夏秋冬』(R-15)

注)広告目的のコメントについては
予告なく削除することがあります。

目次

私の彼は副社長

登場人物

~出会い編~
1/ 2/ 3/ 4/ 5/ 6/ 7/ 8/ 9/
10/ 11/ 12/ 13/ 14/ 15/ 16/
17/ 18/ 19/ 20/ 21/ 22/ 23/
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~真純くんの事情~
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~恋人編~
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